スマートフォンが生活の中心になった今、故人のデジタル情報をどう扱うかは、多くの人が避けて通れない課題となっています。iPhone利用者のデジタル遺産について確認してみましょう。
iPhoneが開かない、その深刻さ
「パスワードさえ分かれば、そのうち開けるでしょう」
多くの人が、そう思っています。
しかしiPhoneの場合、その考えは非常に危険です。
家族が亡くなったあとに直面するiPhoneのロック問題は、時間が解決してくれるものではありません。
むしろ、触れば触るほど状況が悪化することがあります。
実際にあった体験談です。
友人は、母親が亡くなったあと、遺品整理をしていました。
母親が使っていたiPhoneには、孫との写真や、生前に撮影した家族の動画がたくさん残っていたそうです。
「パスコードをいくつか試せば思い出すかもしれない」
そう考えて、家族で相談しながら入力しました。
ところが、一定回数を超えたところでiPhoneは使用できない状態になりました。
最終的には、写真も動画も、何ひとつ取り出せないまま初期化するしかなかったといいます。
「まさか、全部消えるとは思っていなかった」
友人はそう振り返ります。
iPhoneのセキュリティは非常に強固です。
パスコードを連続して間違えると、一時的に操作できなくなります。
さらに回数を重ねると、ロック時間はどんどん長くなります。
設定によっては、10回間違えただけでデータが自動的に消去されることもあります。
この設定は、本人が意識しないまま有効になっていることも少なくありません。
家族が「少し試してみよう」と触った行為が、すべてを失う引き金になることもあるのです。
AppleとAndroidのセキュリティ、何が違う?
iPhoneとAndroidスマホでは、セキュリティの考え方が大きく異なります。
iPhoneは「本人以外は絶対に開けない」という設計思想で作られています。Appleでさえも、パスコードを忘れたユーザーのiPhoneを解除することはできません。これは2016年、FBI(アメリカ連邦捜査局)がAppleにテロ容疑者のiPhoneのロック解除を求めた際、Appleが拒否したことで有名になりました。
一方、Androidスマホは機種やメーカーによって対応が異なります。Googleアカウントの情報があれば、比較的柔軟に対応できるケースもあります。メーカーによっては、本人確認書類を提出することで対応してくれることもあります。
同じスマートフォンでも、iPhoneのほうがセキュリティは強固で、その分、亡くなったあとの対応は極めて厳しい。この違いを知らないままでいると、想像以上に困ることになります。
iPhoneのロック解除、業者に頼むといくらかかる?
「それなら専門業者に頼めばいいのでは」と考える人もいるでしょう。
確かに、データ復旧やロック解除をうたう業者は存在します。
しかし、ここにも大きなリスクがあります。
調べた範囲では、iPhoneのパスコード解除は成功報酬型が多く、
費用は10万円から30万円程度が相場とされています。
しかも、
新しいiPhoneほど解除は難しく、
iOSのバージョンによっては対応できないこともあります。
お金を支払っても、結局何も戻らないケースは珍しくありません。
さらに注意したいのが、業者の信頼性です。
Appleが公式に認めていない方法でロック解除を行う場合、
データの破損や、個人情報の流出といったリスクもあります。
「どうしても開けたい」という気持ちにつけ込む悪質な業者も存在します。
家族の思い出を守るつもりが、別のトラブルを抱える結果になることもあるのです。
亡くなった後にiPhoneのデータを受け継ぐ3つの方法
Apple公式の情報をもとに、現実的に考えられる方法を整理します。
- 生前に設定された「故人アカウント管理連絡先」を利用する
Appleが公式に認めている唯一の方法 - Apple IDとパスワードを把握している場合
状況によってはログインできるが、リスクが高い - 裁判所の命令書などを提出してAppleに依頼する
データ取得ではなく、アカウント整理・終了が目的になる
1 生前に設定された「故人アカウント管理連絡先」を利用する
これが、Appleが公式に用意している唯一の正規ルートです。
故人が生前に「故人アカウント管理連絡先」を設定していれば、
指定された家族や信頼できる人は、所定の手続きを行うことで、
iCloudに保存されている写真やファイル、連絡先などにアクセスできます。
必要になるのは、
・管理連絡先として登録されていること
・アクセスキー
・死亡証明書などの書類
この方法であれば、
「違法ではないか」「勝手に触っていいのか」と悩む必要がなく、
家族も安心して手続きを進められます。
2 故人のApple IDとパスワードを家族が把握している場合
状況によっては、ログインできる可能性があります。
Apple ID、パスワード、さらに二要素認証の確認手段までそろっていれば、
iCloudにアクセスできるケースもあります。
ただし、この方法には大きな注意点があります。
・Appleは本人以外のログインを公式には想定していない
・二要素認証で行き詰まるケースが非常に多い
・不審なアクセスとしてアカウントがロックされる可能性がある
一見、手軽に思える方法ですが、パスワードを知っていても、ロックされたiPhoneに届く確認コードが見られなければログインできません。途中で使えなくなり、かえって状況が悪化することもあります。
「確実な方法」とは言えないため、あくまで例外的なケースとして理解しておく必要があります。
3 裁判所の命令書などを提出してAppleに依頼する
ここは、誤解されやすいポイントです。
裁判所の命令書や法的書類を提出したとしても、
家族がiPhoneの中のデータを自由に閲覧できるようになるわけではありません。
Appleが対応できるのは主に、
・Apple IDのアカウント削除
・端末の初期化
・課金や契約の終了手続き
といった管理・整理のための対応です。
写真やメモなどのデータを引き渡してもらうことは、原則できません。
そのため、この方法は
「データを受け継ぐ方法」ではなく、
どうしても整理が必要な場合の最終手段と考えるのが正確です。
「3つある」ように見えて、現実はかなり限られている
こうして整理すると分かるように、
亡くなった後にiPhoneのデータを安全に引き継げる方法は、実質的には多くありません。
確実性が高いのは、
生前に設定されている「故人アカウント管理連絡先」だけです。
それ以外の方法は、
条件が厳しかったり、途中で行き詰まったり、
最終的にデータを失ってしまう可能性もあります。
だからこそ、
「自分にはまだ早い」と思っている今のうちに、
正しい仕組みを知っておくことが大切なのです。
故人アカウント管理連絡機能の登録方法
故人アカウント管理連絡機能は、iPhoneを使っている本人が生前に設定しておく必要があります。
難しそうに見えますが、実際の操作はそれほど多くありません。iPhoneの操作に慣れていない方でも、手順に沿って進めれば数分で完了します。
「故人アカウント管理連絡機能」事前に知っておきたいこと
「故人アカウント管理連絡機能」設定を始める前に、次の点を確認しておきましょう。
・iPhoneがiOS 15.2以降(現在はiOS 18以降の端末でも利用可能)
・Apple IDでサインインしていること
・管理連絡先に指定する相手が、信頼できる家族や身近な人であること
管理連絡先に指定できるのは、家族だけでなく、親しい友人でも構いません。
iPhoneでの「故人アカウント管理連絡機能」登録手順
- 「設定」アプリを開く ホーム画面にある歯車のアイコンをタップします。
- 自分の名前をタップする 一番上にある、あなたの名前が表示されている部分をタップします。
- 「サインインとセキュリティ」をタップする 一覧の中からこの項目を探してタップします。 (※古いバージョンのiPhoneでは「パスワードとセキュリティ」となっている場合があります)
- 「故人アカウント管理連絡先」をタップする 下の方にスクロールすると見つかります。
- 「故人アカウント管理連絡先を追加」をタップする 画面の案内に従って進みます。この際、Face ID(顔認証)やパスコードの入力を求められることがあります。
- 信頼できる相手を選ぶ 家族共有の設定をしている場合はその人が表示されます。それ以外の人を選ぶ場合は「ほかの人を選択」をタップして、連絡先一覧から選びます。
- アクセスキーを共有する これが最も重要なステップです。相手に「アクセスキー(暗号のようなコード)」を渡す必要があります。
- メッセージで送信: 相手がiPhoneを使っている場合に便利です。
- 控えをプリント: 相手がスマホを持っていない場合や、紙の遺言書と一緒に保管したい場合に最適です。
これで設定は完了です。
設定後に気をつけたいポイント
登録が終わったら、それで安心というわけではありません。
・機種変更をしても設定は引き継がれる
・管理連絡先はあとから変更・削除が可能
・アクセスキーは再発行できるが、相手に伝え直す必要がある
また、管理連絡先に指定したことを、
口頭でも一言伝えておくと、いざというときにスムーズです。
登録後の大切なポイント
設定が終わったら、必ず指定した相手に「もしもの時はこれを使ってね」と「アクセスキー」を伝えておきましょう。
相手がデータを受け取る際には、あなたが発行した 「アクセスキー」 と 「死亡証明書(戸籍謄本など)」 の2つが必要になります。どちらか一方が欠けても、Appleはデータを開示してくれません。
「故人アカウント管理連絡機能」を使ってiPhoneを開く方法
まず最初に、いちばん大切なことをお伝えします。
故人アカウント管理連絡機能を使っても、iPhone本体を開くことはできません。
この機能は、
「ロックされたiPhoneを解除する仕組み」ではなく、
故人のApple IDにひもづくデータを引き継ぐための機能です。
ここを勘違いしている方が非常に多いため、
できることと手順を順番に説明します。
故人アカウント管理連絡機能でアクセスできるデータ
この機能を使うことで、管理連絡先に指定された人は、
以下のデータにアクセスできるようになります。
- Cloud写真
- メモ
- 連絡先
- カレンダー
- リマインダー
- iCloudに保管されているメッセージ
- 通話履歴
- iCloud Driveに保管されているファイル
- ヘルスケアのデータ
- ボイスメモ
- Safariのブックマークとリーディングリスト
- iCloudバックアップ(App Storeからダウンロードしたアプリ、デバイスに保管されていた写真やビデオ、iCloudにバックアップされたデバイス設定やその他のコンテンツのうち、以下のリストで除外されていないものが入っている場合があります)
つまり、
iPhoneの中身そのものではなく、クラウド上のデータです。
ロックされたiPhone本体を操作したり、
ホーム画面を表示したりすることはできません。
また、故人アカウント管理連絡先を使っても、iCloudに同期(バックアップ)されていないデータ(本体のみに保存されている写真など)は取り出せません。日頃からiCloudバックアップをオンにしておくことが、この機能を活かす前提条件です。
故人アカウント管理連絡先がアクセスできないデータ
以下のデータには、故人アカウント管理連絡先はアクセスできません。
- ライセンスが必要なメディア(故人が購入した映画、音楽、ブックなど)
- アプリ内課金(アップグレード、サブスクリプション、ゲームの通貨、アプリ内で購入されたその他のコンテンツなど)
- お支払い情報(Apple Accountのお支払い情報やApple Pay用に保存されているカードなど)
- 故人のキーチェーンに保管されている情報(Safariのユーザ名とパスワード、メール、連絡先、カレンダー、メッセージで使われるインターネットアカウント、クレジットカードの番号と有効期限日、Wi-Fiのパスワードなど)
「故人アカウント管理連絡機能」を使ってデータを引き継ぐ手順
ここからは、実際の流れを具体的に説明します。
1 管理連絡先として登録されていることを確認する
この機能は、
故人が生前に設定していなければ使えません。
家族が勝手に申請して使える仕組みではない点に注意が必要です。
2 管理連絡先用のアクセスキーを用意する
登録時に、
管理連絡先には「アクセスキー」が発行されています。
これは以下のいずれかで保管されていることが多いです。
・印刷した紙
・PDFファイル
・iPhoneのウォレット
・メモアプリ
このキーがないと、申請は進められません。
3 Appleに「データアクセスの申請」を行う
管理連絡先は、Appleの公式手続きから申請を行います。
申請時に必要になるのは、主に以下のものです。
・アクセスキー
・故人の死亡証明書
・申請者本人の身分証明書
内容に不備がなければ、Appleによる確認が行われます。
4 承認後、故人のApple IDデータにアクセスできる
承認されると、
管理連絡先専用のApple IDが作成され、
そこから故人のiCloudデータにアクセスできます。
この状態でも、
故人のiPhone本体はロックされたままです。
よくある誤解
「この機能を使えばiPhoneが開く」は間違い
相談で特に多いのが、次の誤解です。
・iPhoneのパスコードを回避できる
・Face IDやTouch IDが解除される
・ロックされた写真アプリを見られる
これらはすべてできません。
Appleは、
本人以外がiPhoneを開けない仕組みを例外なく守っています。
家族であっても、
亡くなったあとにロック解除だけをする方法は用意されていません。
亡くなった方のiPhoneを開く3つの方法
Appleが公式に認めている方法では、故人のiPhone自体を開くことはできません。Appleでは推奨されていませんが、iPhone自体を開く方法は下記の3つになります。
1. 生前に教えてもらったパスコードで開ける
最も確実で、唯一と言ってもいい方法です。iPhoneのロック解除は、数字やアルファベットの「パスコード」を知っている人にしかできません。Apple IDとパスワード、さらに二要素認証の確認手段まで揃っていればアクセスできる可能性が高いです。
ただし、連続で間違えると「10回でデータ全消去」の設定になっている場合があるため、闇雲に試すのは危険です。また、二要素認証コードは故人の登録デバイス宛てに送信されるため、実際にはログインできないケースがほとんどです。
2. Apple IDとパスワードを使って初期化する
もし「iPhoneの中のデータはいらないけれど、端末自体は家族が再利用したい」という場合は、故人のApple IDとパスワードがあれば可能です。 パソコンから「探す」機能を使ってiPhoneを遠隔で初期化(中身を空っぽにする)すれば、ロックが外れ、新しいiPhoneとして使うことができます。ただし、この操作をすると写真などの思い出はすべて消えてしまいます。
3. Appleへ「アクティベーションロック」の解除を申請する
パスコードもApple IDのパスワードもわからない場合、最終手段としてAppleに依頼する方法があります。 これは「端末を使える状態にする(初期化する)」ための手続きです。Appleでは、必要書類(死亡証明書・相続人証明など)を提出し、審査を通過した場合に限り、端末の初期化手続きをサポートしてもらえます。ただし、データは復旧されません。 ※「データはすべて消去」されます。
「故人アカウント管理連絡先」は登録しておくと安心
一度ロックがかかったiPhoneから「データだけを取り出す」のは、Appleの公式サポートであっても不可能です。
だからこそ、「iPhoneそのものは開かなくても、中にある写真や連絡先だけは家族が自分のスマホから見られるようにしておく」 という仕組みである「故人アカウント管理連絡先」を登録しておくと安心です。


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